由来・歴史
あこや(阿古屋)は、真珠養殖のスタンダード「アコヤ貝」に由来しています。
真珠の母貝として古くから親しまれたアコヤ貝は、平安時代に宮中儀式に供された「戴餅(いただきもち)」のモチーフになりました。これが後に伝統和菓子となる、あこやのルーツです。
宮中儀式の献上菓子として出発したあこやは、後に女の子の成長を願うひな祭りの行事食にもなり、その風習は今日まで伝えられています。発祥エリアの関西では、あこやは雛菓子の代表格として有名です。
ただ、古代におけるあこやの立ち位置はあくまでも祭事用の菓子。庶民に開かれた大衆菓子となるまでには、さらに数百年以上の時を超えます。
江戸中期の享保3年(1718年)、菓子専門書の「諸国名物御前菓子秘傅抄」が刊行されました。数ある和菓子の一つにあこやが取り上げられ、菓子製法などが記されています。長い時を経て、ついにあこやが大衆菓子として定着したことを示す証拠です。
他方、あこやの神聖性もたゆみなく継承されます。江戸幕府では平安時代からつづく嘉祥の儀式(厄を祓い福を願う儀式)が行事化され、数ある献上菓子の一つとしてあこやも供されました。
こうして、あこやは祭事と大衆のいずれにも通じる自由で開かれた和菓子となったのです。
現在、あこやはふたたび行事食としての色合いを深めており、関西を中心に雛菓子として活躍しています。
特徴
あこやは、真珠の母貝として有名な「アコヤ貝」をモチーフにした日本の伝統和菓子です。
上新粉や白玉粉で作った餅生地や、こなし、ういろう等をベースに全体をアコヤ貝に模して成形し、その上にあんこや金団をのせて作ります。
味わいは材料によって変化するのが特徴です。よもぎ餅を生地とした場合はよもぎの香り、ういろうを使用した場合はもっちりした食感など、いずれも普遍的な材料が使われるため、シンプルで上品で昔懐かしい風味が楽しめます。
ただし、あこや最大の特色はアコヤ貝を模した神秘的なデザインです。自然に従っていきいきと造形したアコヤ真珠の姿は、小さくて繊細ながらも、独特の存在感を放っています。
外観の色は材料次第です。トッピングはあんこやきんとん色が定番ですが、生地は白、緑、ピンク色など種類が豊富。緑色の正体はよもぎ餅と一目で分かりますが、着色もできるためカラーバリエーションは無限大の可能性を秘めています。
また、あこやは貝の蝶番(ちょうつがい)の部分が引きちぎったように見えることから「引千切」とも呼ばれています。引千切には子だくさんの意味合いが込められており、関西地方では古来より子宝・安産を祈念して上巳の節句にあこやが食されてきました。
以上、あこやは「貝」「真珠」という自然の恵みが人々の心に喜びと安心を与える神聖な和菓子です。
分類や原材料
分類(水分量) | 生菓子 |
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分類(製法) | 餅物 |
主な原材料 | こしあん、上新粉、白玉粉、砂糖、塩 |
利用シーン
あこやは、関西では3月のひな祭りに食される雛菓子として有名です。それと同時に数寄屋菓子(茶請け)として用いられてきた歴史もあり、茶会の席でも映えること請け合いです。初見の方はぜひ関西旅行の際にお土産として購入されることをおすすめします。
- おやつ、茶菓子
- ひな祭り、嘉祥祝いなど行事食
- お土産、ギフト、お祝い
有名なあこや
参考資料
- 近世砂糖製法書の成立―甘さの文化の隆盛―
- Q:引千切の由来を教えてください。|株式会社 波里
- 臼杵藩御会所日記にみえる食物について
- 季節広報誌「あじわい」ajiwai|和菓子探検
- 第十一回京菓子の歴史|京都ツウのススメ
あこやのレビュー
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