和菓子は古代から中世、近代、現代まで2000年にわたる悠久の歴史を持っています。その間、文明の発達やあらゆる社会変化に揉まれながら、多くの「味」「美」「技」を生み出し、独自の和菓子文化を築いてきました。このページでは、和菓子が歩んできた歴史の流れや時代ごとに誕生した和菓子について概説しています。
縄文・弥生時代の和菓子
縄文・弥生時代には木の実・米などで作った団子や餅菓子が誕生しました。
縄文・弥生時代は、日本文化史の黎明期です。文明社会が未発達だったこの時代、和菓子のさきがけとして、早くも団子や餅菓子が作られていました。
菓子の原点は木の実にあったといわれますが、団子はまさに、縄文期の人々が木の実を粉砕して水でこね団子状にして食していた話が伝えられています。
弥生時代になると水稲耕作(米づくり)がはじまりました。これを母体に誕生したのが餅菓子です。大福や柏餅など現在の餅菓子のように完成されてはいませんでしたが、米と麦を混ぜて作った餅菓子の原型となるものが、当時すでに作られていました。
団子についても、弥生時代には蒸したうるち米を丸めて保存食や行事食とした話が伝承されています。この点、団子・餅菓子といった古代の和菓子は、稲作文化とともに発展したといえるでしょう。
当時を詳細に伝える文書や記録は少ないですが、それだけにミステリアスな世界観を掻き立てます。
奈良時代の和菓子
奈良時代には、ところてん・かりんとう・あられ/おかき・おこしなどが誕生しました。
奈良時代は、日本文化全体が中国大陸の影響を受けた時代です。特に唐朝より仏教とともに伝来した唐菓子は、日本の和菓子文化の形成に大きな影響を与えました。
一例をあげると、この時代に誕生した「ところてん」「かりんとう」の製法はいずれも唐菓子に源流があります。また、奈良時代の古文書群「正倉院文書」には、「心太(ところてん)」の文字が記録されており、漢字表記が先行していた点はいかにも中国伝来という感じです。
一方、奈良時代に登場した和菓子には、「あられ・おかき」「おこし」もあります。あられ・おかきは神事に端を発しているほか、おかきも神前に供えられたお菓子です。
仏教伝来とともに宗教文化が発展し、神様に食べ物を供える習慣が定着しはじめ、それを背景に新たな菓子が誕生するパターンも確立されました。このような神事由来のお菓子は、その後の和菓子文化の伝統の一つに数えられます。
平安時代の和菓子
平安時代には、ちまき・わらび餅・ぜんざい・おはぎ・最中などが誕生しました。
平安時代は、平安遷都から鎌倉幕府が成立するまでのざっと90年ほどの時代です。新たに、ちまき、いが餅、亥の子餅、花びら餅、わらび餅、あこや、ぜんざい、おはぎ、もなか等の和菓子がお目見えしました。種類が一気にふえ、さながら古代における和菓子のベビーブームです。
この時代は、奈良期に続いて中国文化の流入が盛んでした。古代中国の風習とともに菓子の原型が輸入されるケースも多く、例えば、「ちまき」は、中国に古来より存在した供え物の菓子が「端午の節句」の習慣と一緒に日本に伝来しています。「亥の子餅」も、中国で起こった無病息災を願う儀式・亥の子が由来です。
他方、平安時代は祭事用のお菓子も多く輩出しました。伝統の嘉祥菓子の一つに数えられた「いが餅」をはじめ、今昔物語にも記録された「おはぎ」、古代出雲より伝わる神在祭を由来とする「ぜんざい」など、神事由来のお菓子には事欠くことのない時代です。
鎌倉・室町時代の和菓子
鎌倉・室町時代〜安土桃山時代には、饅頭や羊羹またカステラをはじめとする南蛮菓子が伝来しました。
鎌倉・室町は、武士が台頭する時代です。古代と比べて貨幣を用いた商品経済も発展し、菓子店が存在したとする伝承もあります。例えば、豆飴とも呼ばれた伝統菓子の「すはま」は、弘安年間(1278年〜1288年)に京都にあった松寿軒という菓子店が原型を考案したといわれています。
また、依然として中国との文化交流も盛んでした。鎌倉中期~室町中期にかけては、かの地に留学した禅僧によって「饅頭」の文化が輸入されています。これが現代まで続く日本饅頭文化の出発点です。
中国との文化交流では、「点心」の影響も少なくありません。点心は、中国古来からの軽食文化です。この時代に誕生した「羊羹」は、まさに点心の一つである羊肉スープにならい、小豆と粉類をこねて羊の肝の形につくった蒸し羊羹が源流となっています。
なお、室町末期〜安土桃山時代には南蛮菓子(西洋菓子)として、カステラ、ぼーろ、金平糖なども伝来しました。
江戸時代前期の和菓子
江戸時代前期には、桃山・練り切り・きんつばなどが誕生しました。
江戸前期は、長く続いた戦国の世が終わり、徳川幕府の成立とともに社会が安定に向かう時代です。菓子業界も転機をむかえます。経済の安定と商品流通の活性化により、砂糖の流通量が増大し、さまざまな菓子がリリースされたのです。
練り切り、きんつば、切山椒など、今日まで伝わる多くの伝統菓子が流行したり繁栄したり、あるいは定着したりしました。
特に目を見張るのが、茶菓子の成長です。例えば、デザイン性の高い練り切りは、京都で発展した茶の湯文化を背景に成長しました。同様に切山椒についても、茶人として知られた、近江小室藩初代藩主の小堀政一が好んで食した話が伝えられています。
江戸前期は、こうした品のある茶請けが多く誕生した時代でした。
一方、依然として武士の世は続いています。江戸前期に誕生したきんつばの名称は刀の「鍔(つば)」を由来としています。
江戸時代中期の和菓子
江戸時代中期には、今川焼やさくら餅が誕生しました。
江戸中期に入ると、和菓子は大衆文化として定着します。この時代に誕生した「今川焼」はその象徴です。名物店の番付誌にも取り上げられ、日常的な話題のトレンドになりました。
また「かるかん」の名は、御献立留(1716年)や豊後岡藩・菓子値段帳(1738年)、山形鶴岡・菓子値段帳(1778年)など諸国の文献に記録されるなど、全国区の知名度を獲得します。
一方、同じ和菓子でも地域によって趣向が分かれるという流れも。やはりこの時代に誕生した「さくら餅」は、関東風(長命寺)と関西風(道明寺)の2種類が誕生しました。同じ菓子の中でバリエーションが生まれる余裕は、和菓子文化の深化を感じさせます。
もう一つこの時代に生まれた「塩がま」は、材料を木型で押し固めて成形したお菓子です。江戸前期は今川焼における焼型も含めて、型を用いた成形技術の発展がめざましかった時代でもありました。
江戸時代後期の和菓子
江戸時代後期には、栗きんとん・くず餅・柏餅などが誕生しました。
江戸後期は諸街道の整備により商品流通が極みをむかえた時代です。その中で安定的に発展した和菓子文化はさまざまな商品を生み出しました。
栗きんとん、くず餅、柏餅、水羊羹、みぞれ羹、石衣、かのこ、甘納豆… いずれも現代に受け継がれている伝統和菓子です。当時の中山道の途上にあった中津川を発祥地とする栗きんとんは、まさに道路整備の恩恵を受けて発展したお菓子でした。
一方、江戸中期から後期にかけては自然災害や飢饉も続発します。天保年間(1831年〜1845年)の大飢饉は特に有名ですが、そのさなか、一人の無名の男性によって誕生したのが「くず餅」です。くず餅は思いがけなく多くの人々を飢餓から救ったと伝えられています。
みぞれ羹の画期性もインパクト十分でした。練り羊羹をベースに寒天に米粉を散らして霙(みぞれ)を演出する新しいアイデアは、この時代が中世と比べて社会に余裕があったことを想像させます。
明治時代の和菓子
明治時代には、たい焼きが誕生しました。
明治維新による近代化の幕が開けた時代です。和菓子文化における歴史の蓄積も相当な量に達しました。そのため、見たことのない新種だけでなく、既存の菓子をベースに開発された和菓子も少なくありません。
「たい焼き」はその一つです。すでに普及していた今川焼をベースに作られており、その意味で和菓子の歴史遺産にあやかった作品といえます。
一方、江戸前期、中期に続いて後期においても、和菓子は茶の湯文化とのつながりが密接でした。例えば、明治の製法書にも記録される「つやぶくさ」は、古くから茶道で用いられてきた風呂敷の袱紗(ふくさ)を名前の由来としています。また、つやぶくさと同系のふくさ餅が生まれた金沢は茶文化が盛んだった土地柄です。
茶菓子・和菓子は、もはや明治期に至ってはすっかり手垢の付いた言葉になっていたのではないでしょうか。
昭和〜現代の和菓子
昭和〜現代においては、過去の歴史を受け継いだ和菓子文化が発展してきました。
明治以来の近代化に拍車がかかり、あらゆる面で豊かになった昭和〜現代。和菓子文化も着実に発展をつづけてきました。材料が手に入りやすくなり、機械化も含めて製造技術が向上し、昔と比べてよりお菓子を作りやすい、また楽しみやすい環境が整備されてきたのです。
昭和初期に生まれた「あんみつ」は、そうした豊かさを象徴しています。寒天、みつまめ(赤えんどう豆)、小豆餡、求肥、干し杏子、黒蜜・白蜜など、えりすぐりの材料をふんだんに用いたこの掛け物の代表作は、控えめに言っても贅沢な逸品です。
一方、昭和期には戦争などで物質が不足し、和菓子の生産が途絶えるなど空白期もありました。老舗菓子店の中には戦争前後に廃業を余儀なくされたところも少なくありません。
しかし受難の時代を見事に乗り越え、戦後の和菓子文化は復活して余りある、さらなる発展と成長をとげて今日に至っています。
和菓子の歴史を知ろう!
和菓子の歴史を7区分して各年代ごとの概略をお伝えしました。歴史の流れを追うことで和菓子の知識が深まるのはもちろん、営々と磨き上げられてきた和菓子の魅力の本質に迫ることも可能です。
何気なく和菓子を食べていて、ふと、「このお菓子はいつ誕生したのかな?」「誰が、どうやって作ったの?」」「どんな由来やエピソードがあるのだろう」と思ったときは、ぜひ本記事をご活用ください。
主な参考資料
→ トップページへ